14:散歩

 「どこへ行くんだ?」
 ランパスキャットがそう訊いたのは、全くの気まぐれだった。
 某紳士曰わく「ぐうたら」なランパスキャットは、どこで、誰が、何をしていようがあまり興味を示さなかった。
 シラバブにオモチャにされようが、コリコパットに昼寝の邪魔をされようが、大体「まぁいい」と済ませてしまう。
 だから、その日、ランパスキャットがそう尋ねたのは全くの気まぐれだった。
 「お散歩」
 と、ジェミマは応える。
 自ら訊いておいて何だが、ランパスキャットはそれに対して返す言葉がなかった。
 仕方なしに「そうか」と、短くこたえる。
 ジェミマは何か不思議なものをみるような眼で、ランパスキャットを見つめた。
 「ねぇ……どうしたの?何か悪いもの食べた?あ、もしかして、昨日あたしが作ったごはんが悪かったとか……」
 「いや」
 「なら、いいけど」
 ジェミマは安心したような自信がなさそうな、不思議な表情をした。
 そう。昨日、ジェミマが作った夕飯は奇跡的にまとも(もっとも、口にしても命の保証があるというレベルだが)だった。
 料理後の台所も悲惨ではあったが、一夜の間に修復可能な状態で――これは、今迄台所に立つ度に、必ず台所を悲劇的といえる程に半壊させていたジェミマからすれば快挙である。
 「あたし、出掛けるの止めようか?」
 ジェミマは不安げに首を傾げる。
 「いや、かまわない」
 「でも」
 どうやら、いつものランパスキャットらしからぬ言動が余程心配らしい。此方としては本当にただの気まぐれだったのだが、こうなってしまうとなかなか収拾をつけ難い。
 いつの間に、いっちょまえに他人の心配ができるようになったのだろうか。
 と、考え、ランパスキャットは深い溜め息をついた。
 ジェミマだって成長する。
 いつの間にか、料理ができるようになっていて。
 いつの間にか、他人の心配をするようになって。
 この子が散歩に一人で出掛けるようになったのはいつからだろうか。つい最近のような気もするし、もう随分前からだったような気もするが――思い出せなかった。
 子供はいつか大人になる。
 それは当たり前のことだ。何故それに気付かなかったのだろう。
 いつまでも子供扱いはできない。此方も変わらなければならない。一日、一日、この子は変わり続けるのだから。
 ――ごっこ遊びももう潮時かもしれない。
 「ねぇ、一緒に行く?」
 それでも、まだ当分はこのままで。
 ランパスキャットは苦笑し、「そうだな」とこたえると、重い腰を上げた。







たわごと