8:月光

 太陽さんさん照る日にはまったく何にもしないのさ!
 身体休めて待っている
 そう ジェリクルムーンの月の出を!


 ヴィクトリアは深夜の道をとぼとぼと歩いていた。
 街灯がまばらに道を照らす。そのおかげで視界には不自由しなかったけれど、無機質な白い光はどこか寂しい感じがした。
 昼間は人間でごった返している道にも、今は誰もいない。街を歩けば大体誰かと会うのだけれど、今日はそれもなかった。
 街そのものが寝静まっているのだ。


 歩き慣れた道をしばらく行くと、少し拓けた場所に出た。
 都会の片隅に残された小さな空き地に廃材が積み上げられている――ゴミ捨て場だ。

 ゴミ捨て場はすり鉢状になっていて、真ん中部分には何もない。
 一番高いところにきた月の光が丁度その部分に降り注いで、即席の劇場のようになっていた。

 ――ここでなら。
 踊れそう、だとヴィクトリアは思った。
 思ったときにはもう自然と足が動いて、ゴミ捨ての中心にまできていた。
 無造作に片脚をあげる。
 ただそれだけの動作だが、それが開始の合図だった。後はもう何も必要ない。
 無音の中、ヴィクトリアは静かに踊り始めた。

 青白い月の光がスポットライトのようにヴィクトリアを照らす。
 満月の光は明るく、月を遮るもののないここでは、街灯など必要ないほでだった。
 月は太陽の光を受けて輝く。今、その月の光を地上で受け輝いているのが彼女だった。
 闇夜に浮かび上がった白猫は神秘的な美しさで、この世のものとは思えない――そこだけ、どこか違う、おとぎの国かどこかから切り取られてきたかのようだった。

 月の光を浴びてヴィクトリアは踊る。
 これから月が欠け、次の満月が来たら舞踏会だ。
 今年の舞踏会は特別になる。そんな予感がする。だから、それまでに。

 舞踏会まで後少し。
 瞼の裏にはあたたかいジェリクルムーンの光があった。







たわごと