そこに、一歩踏み入れると、全く違う世界だった。

 気分が悪い……。
 とミストフェリーズは思った。
 グループに分かれてジェミマを探す、ここまではよかった。
 だが、そこから先が問題だった。
 赤線内を知っている者はほとんどいない。そのため、知っている者+知らない者とで必然的に組になった。

 だからって、なんで僕がタガーとなんだろうねぇ……。

 因果だったら嫌だなー。と小さくミストフェリーズは呟く。
 それでも、自分はマシなほうかもしれない。
 個人的にはガスとリーナってのが気になるなぁ…。
などとぼんやり思う。ランペルティーザが乱入してきたため、本来なら、タガーとボンバルリーナ、ガスとマンゴジェリーとミストフェリーズとなるところだった予定が変わってしまった。

 狭い、込み入った路地。そこかしこにちらつく影、そして何より、なんともいえないこの“匂い”――できれば近寄りたくない場所だ。
 ラム・タム・タガーはそんな場所を戸惑うことなくすたすたと歩いていく。
 「待ってよ、タガー」
 前をいく彼に声を掛ける。
 「ねぇ、そんなに早くちゃ見つかるものも見つからなくなっちゃうよ」
 ミストフェリーズがそう呼び止めるが、それでもタガーは歩みを止めない。
 「ねぇ、タガーってば!」
 何度目かに怒鳴った時、タガーは急に足を止めた。
 「うるさい、クソガキ」
 ぴっと、人差し指をミストフェリーズの額に突きつけてタガーはいう。
 「いいか、ノーミソと胴体がちゃんと一緒にくっついて此処から出たかったら大声で話すな、いちいち立ち止まるな。 ついでに、他人の名前を連呼するな――勿論、手前のもだ」
 「どうしてさ?」
 「どうしても」
 にべもなくそういわれて、ミストフェリーズは少しむくれてみせる。
 だが、タガーにはそんなことお構いナシのようだ。
 「それと、“自称”有名スタイリストに声を掛けられたくなくても、だ」
 「は?」
 わけがわからない。
 「とにかく、だ」
 鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしているミストフェリーズを無視して、タガーは先を続ける。
 「とろとろほわほわするなってことだ」
 「何ソレ」
 っつーかさ……。と、ミストフェリーズは続ける。
 「ココってそもそも何なわけ?」
 「赤線内」
 「見ればわかる」
 「なら、立ち入り禁止区域」
 「だから、何でそうなのさ?」
 はぁぁぁ。とラム・タム・タガーは彼にしては珍しく深い溜息をついてその場にしゃがみ込んだ。
 「ここの現状を見て積極的に首を突っ込みたいと思うなら、お前は此処の住人になれる」
 「そんなこと思わない」
 ミストフェリーズはムッとして答える。
 「僕が聞きたいのはね、赤線って一体何なのかってこと。ガラが悪いから、危ないから立ち入り禁止ってのは聞き 飽きたよ」
 「だから……」
 「大体、立ち入り禁止ならどうして君は此処にそんなに詳しいのさ?」
 「あぁ、それは簡単だ。俺が此処で育ったから」
 「――!?」
 とにかく。とラム・タム・タガーは立ち上がる。
 「つべこべ言わずに歩け。騒ぐな。きょろきょろするな。以上」
 それだけ言い放つと何事もなかったかのようにすたすたと歩き出す。何メートルか行ったところで、ミストフェリーズが付いてこないことを不審に思い、立ち止まり、振り返る。
 「……おい」
 「――――ごめん」
 「そう思うなら、黙ってついて来い」

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自称スタイリスト云々って所だけ90%ノンフィクションです。
私が一人で某所に買い物に行くと何でか「スタイリストやってて結構有名なんですけど、髪弄らせてもらえますか?」って聞かれるんです。
そんなに酷い頭してますか、私。そうですか。すみません。みたいにいつも思うんですが(苦笑)。
あ、勿論断ってます。