くぁぁ、とラム・タム・タガーは大きな欠伸をした。
 一目で退屈だというのが手に取るようにわかる。
 どうしたもんかねぇ……。
 と、自分の置かれた状況を客観的に捉えようと、精一杯の努力をしてみる。
 今、タガーの右側にはディミータが、左側にはボンバルリーナとタントミールがそれぞれいて、あまつ、向かって正面にはジェリーロラムとジェニエニドッツがいる。
 別段好きでこんな場所にいるわけではない。
 偶々、道でジェリーロラムとタントミールに会ったらそのまま引っ張ってこられたのだ。
 そして、女達の昼下がりのお茶会にいつの間にかつき合わされていた。
 嫌ではない。
 お茶とお菓子が無条件でもらえて、更に、周りが雌猫だらけときて、この状況を嫌がる雄がいるだろうか。
 タガーとてそれは例外ではない。
 お茶もお菓子も(好みはうるさいが)大好きだし、女はもっと好きだ。
 「ねぇ、タガー」
 とボンバルリーナがさり気なく彼の腿に手を這わす。
 「今の私の話、ちゃんと聞いていて?」
 「あぁ」
 素っ気なくタガーは返す。
「それとも、そんなに退屈?」
 並の雄なら一瞬で悩殺できそうな声でボンバルリーナは言う。やや伏せた視線も、その仕草も、全てが彼女だけがもつ代物だ。
 「さぁね」
 タガーが平然としていられるのは“慣れ”以外に他ならない。
 こういうのを“ハーレム”っていうのかねぇ……。
 などと阿呆なことを考える余裕があるのも“慣れ”の証拠だ。
 「だったら、そんなに退屈そうに阿呆面さらしてんじゃないよ」
 ジェニエニドッツがティーカップに紅茶のお代わりを注ぎながらいう。
 「たまには、ストレートにいってみないと……そのうちトモダチなくすよ」
 「うるせー」
 天邪鬼は俺のスタンスだ。などとタガーはジェニエニドッツに言ってのける。
 ジェリーロラムはそんなやり取りを眺めながら、くすくすと笑いを漏らし、「今のは……」と続ける。
 「“リーナ達とのお喋りはとっても楽しいし、おばさんの忠告も有り難く受け取ります”ってことかしら」
 「あー、はいはい」
 反論するのも面倒くさい。
 いや、事実として反論の仕様もないが。
 それでも、せめて何事かを言っておこうと、タガーが言葉を紡ごうとした瞬間、慌しく、家の扉がノックされた。
 訪問者は家の主が扉に駆けつけるのも待たずに室内へと入ってくる。
 「――やっぱりここにいた……」
 急いできたのか、彼は肩で大きく呼吸をし、額の汗をぬぐう。
 「ミスト?珍しいね、一体どうしたんだい?」
 ジェニエニドッツの言葉にミストフェリーズは顔を上げ、部屋の中を見渡し、少し何かを考えるような素振りを見せてから話し始めた。
  「――ジェニー、今から事情を話します。その後で、タガーと……よければボンバルリーナとディミータをお借りしてもいいですか?」
 コイツがこういう回りくどい話し方をするときは碌なことがない。
 フン、とタガーは誰にもわからないように毒付いた。
 「いいも何も、この子達は私の所有物じゃないからね。本人に聞いてごらん?」
 ミストフェリーズが無言でディミータとボンバルリーナの顔を見ると、二人も無言でうなずき返してきた。
 そして、タガーはというと「話の内容によるな」といいつつも、しっかりと、胸中では“YES”と決めていた。
 俺様、今日大モテじゃん。
 と、この時までは軽いノリで考えていたからである。




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ハーレムって、確か由来はオスマン=トルコの後宮だった気がするんですが……。
違ってたらすみません。