「あんのくそチビ……!!」
 というのが、ミストフェリーズの話を聞き終えてすぐにタガーが漏らした感想だ。
 無理もない、とボンバルリーナも思う。
 あの場所には近づいてはいけないと、彼女がこの街に来て以来、散々言ってきたのだから。
 まったく、あのおチビさんにも困ったものね。
 はぅ、と小さく――周りに気付かれないように――溜息をつく。
 だが、そんな彼女をボンバルリーナは口で言うほどには嫌っていない。
 彼女の向こう見ずで無鉄砲、そして少々潔癖なところはどこかで見たことがあるような気がするからだ。
 「おい、ミスト。とっととジェミマのとこに連れていけ」
 「連れてけって……無理だよ、ジェミマが何処にいるか僕知らないもん」
 「あぁ?何寝惚けたこといってんだよ、お前の“占い”でなんとかなんねーのかよ?」
 「占いとかいわないでよ。せめてマジックとか、魔法とか……」
 「かわんねーよ。不思議現象は全部“占い”で充分だ」
 「頭悪いなー。魔法っていえないの、ま・ほ・う。たった三文字でしょ」
 少し、隣のタガーとミストフェリーズの会話に耳を傾けてみる。放っておくといつまでも続いていそうな漫才に、ボンバルリーナは再び溜息を漏らした。
 ミスト、と声を掛けると、我に返ったかのように彼は振り向く。
 「それで、私達はどうすればいいの?」
 その言葉にミストフェリーズは“しまった”とでもいうような表情を浮かべる。
 忘れてたのね……。
 ボンバルリーナも呆れ顔で見つめ返した。
 「えっと……」
 コホン、と咳払い一つ。再び彼はよどみなく話し始める。
 「ジェミマがあそこに向かって歩いていったのは事実。ランパスと僕でそれを見かけた。追いつけそうもない距離だっ たから、多分、僕をこっちに連絡係として遣して、ランパスがジェミマを追った――だから、僕はジェミマが何処にい るのかは知らない。勿論、ランパスもね。だから、僕らで二人を探さないといけない。タガーと、リーナ、ディミ、三人にはそれを手伝って欲しい」
 「ランパスがジェミマをあそこに入る前に止めている可能性は?」
 「限りなく低いと思う」
 「根拠は?」
 「勘」
 ――――……ダメだ。
 ボンバルリーナは声に出さずにそう思い、痛み始めたこめかみを軽く押さえた。
 「あー、もう、ごちゃごちゃうるせぇ!!」
 ガタン、と音を立ててタガーが立ち上がる。
 「俺とお前と、リーナであいつらを探しに行く。ディミは教会に行ってマンカスを連れてくる。それでいいか?」
 「教会?マンカス?どうして?」
 ミストフェリーズは訊き返す。その声音の微妙な変化がボンバルリーナには少しひっかかった。
 「どうしても、こうしても……これで俺たちまであそこで引っかかっちまったらお仕舞いだろうが」
 「でも……」
 まだ何事かをいいかけているミストフェリーズを無視してタガーは話を進める。
 「リーナ、あそこはやっぱり昔のままか?」
 「でしょうね。最近は私もご無沙汰だからわからないけど」
 「……他に必要なヤツは?」
 「――……マンゴはいたほうが絶対にいいわ。後……できればガスも」
 「そうか――……ディミ」
 何?とディミータは弾かれたように顔を上げる。
 「まず、お前は……」
 「ちょっと待ってよ」
 割って響いた声にタガーは台詞を止める。
 「何、自分たちだけで話進めてるわけ?」
 「――……ジェリー……」
 「何か、大切なこと忘れてない?」
 にっこり微笑むその笑顔が恐ろしい。
 「あそこが絡んでくるとなると厄介だね。私も別方面から当たってみようか」
 ジェニエニドッツまでが横から口を挟む始末。
 「――……ゲームじゃないんだ」
 タガーは二人を一瞥すると、椅子に再び腰を下ろし、深く背を預けた。
 「お前らはあそこを知らなさすぎる」
 確かに、タガーのいうことも一理ある。
 あそこがどういうところかは、実際に行ってみた者ではないと理解できないだろう。でも……。
 口で言って、納得してくれる相手じゃないわよね……。
 ジェリーロラムも、ジェニエニドッツも実際にあそこを見てきたわけではない。ボンバルリーナが知っている部分でさえ、あそこのほんの一部分だ――それも、ひどく昔の。
 「誰も、実際に“行く”なんて言ってないじゃない」
 『は?』
 ジェリーロラムの言葉に思わず唱和して、ボンバルリーナたちは返した。
 「あそこに行くなんて誰が言ったのよ。自分の許容範囲くらいわかってるわよ。少なくとも――私達があそこにいっても何もできないってことくらいわ、ね」
 「じゃぁ――」
 「でも、こっちでなら私達にも出来ることくらいあるでしょう?」
 「……あのなぁ」
 タガーは“何と言ったらいいのかわからない”というような表情を浮かべ、ミストフェリーズに「降参」と仕草で示す。
いきなり振られて、ミストフェリーズも当惑しているようだ。
 「あのさぁ……」
 ふと、今まで沈黙を守っていたタントミールが口を開いた。
 「あんたたち、あの子のことが心配なのは自分たちだけだと思ってるの?」
 「――!?」
 その言葉に、タガーもミストフェリーズも押し黙る。
 ボンバルリーナは彼等のその表情をみて、タントミールを見、やわらかく微笑んだ。
 「……きまり、ね」


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そういえば、リーナ姐さんをFFでかくの初めてですね。
CD→ネット→DVDと捩れた猫世界を形成した為、タントの性格はDVDカッサ、ヴィジュアルは四季タントとなっております。