「マンゴ!」 呼ばれ、マンゴジェリーは振り向いた。 「みてみて、コレ。かわいーでしょ」 「おまえなぁ……」 満面の笑顔で手にした首飾りを広げてみせるランペルティーザにマンゴジェリーは少し呆れたような声を出した。 確か、彼女は一昨日も似たようなことをいって光り物――多分、ブローチだったと思う――を見せてくれたような気がする。 「ミスター・ジョーンズのお家からちょっと失敬してきちゃった。どう?」 マンゴジェリーとしては、光り物などの装飾具などよりも、もう少し実用的なものの方が嬉しかった。否、光り物が悪いといっているわけではない。ただ、光り物ばかり集めたところで肝心の日用品や食料が不足していたらば意味がない。金で食えるが、金は食えない。 なので、少し色の悪い声を出したのだが、ランペルティーザはそんなことはお構いなしのようだ。 「ね、似合う?」 「あー、はいはい」 結局、折れるのはいつも此方なのだ。 なんか、理不尽だよなぁ……。 と、ほんの少しだけ物悲しい気持ちになってみる。 ふと、視線を下に向けると、黄色がかった雌猫が見える。 「ジェリーロラム!!」 マンゴジェリーは気晴らしに、軽い気持ちで上から彼女に呼びかけてみた。 「ジェリー!ココだよ、上だ、う・え!!」 ジェリーロラムがしきりに辺りを見回している。ランペルティーザもやってきて、「ジェリー、“斜め”上よ!」と大声で呼ぶ。 言われ、死角になっていた位置にジェリーロラムは視線を向けると、ようやく此方に気付いたようだ。 「久しぶり、ジェリー」 「えぇ、ランペル。三日ぶり」 女ってわかんねー。 笑いあう女二人をみてマンゴジェリーは思った。 「ところでランペル」 「なに?」 「お願いがあるんだけど……」 珍しいこともあるもんだ。 ランペルティーザがジェリーロラム――に限らず、年上なら誰にでも――にお願い事をしているところはよくみるが、ジェリーロラムが誰かに何かを頼む場面というものに遭遇したことはあまりない。 切り出しにくそうにしているジェリーロラムにランペルティーザは「何でもいって」と先を促す。 「あのね、ランペル」 「ん?」 「ちょっとだけマンゴを貸してほしいの」 ――――はい? 「うん、いいよ」 「ほんとうにいいの?」 「うん、全然大丈夫。おっけー、おっけー。問題ナシ」 「ありがとー」 ちょっと、マテ。俺の意思は問題にならないんだろうか。 「おい、ちょっと待てよ!」 『何が?』 二人唱和でランペルティーザとジェリーロラムは返す。はっきりいって、恐い。 「……なんでもないです」 当然よねー。といい、彼女たちは更に話を進めていく。 押しに弱いマンゴジェリー。自称大泥棒。 「でもね、ジェリー。一つだけ条件つきよ」 「なぁに?」 「私も連れてってね」 ランペルティーザの言葉にジェリーロラムの笑顔が一瞬引きつる。 ――――今日は厄日かもしれない。 マンゴジェリーは嫌になるくらいに澄み切った空を見ながら、声には出さずに呟いた。 * * * 「あのね、ランペル……私はマンゴを貸してとは言ったけれど、あなたにもついてきて欲しいとはいってないのよ?」 「うん、勿論。それはわかってる」 「じゃぁ、ここで大人しく待っててくれないかしら?」 「イ・ヤ」 「ランペル……」 ジェリーロラムは頭を垂れ、深く溜息をつく。 一度、こうだと言い出したランペルティーザはテコでも動かない。そのことは長年相方をやってきたマンゴジェリーが一番よくわかっている。 「ランペル……あのね」 「だってね、ジェリー」 とランペルティーザがジェリーロラムの言葉を遮り、喋りだす。 「マンゴ一人だけ連れって行ったて、なぁーんにもできないんだから」 「は?」 「マンゴってば、この間も盗みに入ったところで盆栽落として大きな音たてちゃうし、犬の尻尾踏んづけるなんてしょっちゅうよ。その前なんかは金庫の暗証番号忘れたのよ。信じられないでしょ?」 「…………」 じゃあ、お前がガラスの花瓶を落として割ったり、カラスの光り物狙って追い掛け回されたり、宝石箱のキーを失くしたのは一体何なんだ……。 「洗濯物取り込むのも忘れちゃうし、お鍋は焦がすし……大体、マンゴなんかお茶一つ満足に淹れられないのよ」 あぁぁぁぁぁぁ、もう……。 「ね、私の方が断然役に立つと思わない?」 「うん、そうね」 「オイ」 冗談よ、とジェリーロラムはマンゴジェリーにいうが、目が笑っていなかった。 「でもね、ランペル。私は“マンゴを連れてこい”っていわれたの」 「でも……」 「ごめんなさい」 ジェリーロラムにそういわれ、ランペルティーザは一瞬だけしゅんとした表情を見せる。 マンゴジェリーはほっとしたようなどこか不安なような……そんな気持ちになる。 「ジェリー……“マンゴを連れてこい”っていわれたのよね?」 「……えぇ」 「じゃぁ、“ランペルティーザ(わたし)を連れてくるな”とわ言われていないわよね?」 「――――!?」 いくわよ、とランペルティーザは呟く。 「地の果てだろーが、大西洋の底だろーが、どこへだってぜーったいについていってやるんだから!!」 大声できっぱりとランペルティーザは宣言する。 漫画か映画だったならば、差し詰め背景に大波か稲光がありそうだ。 「文句ある?」 大有りだ。とは誰もいえなかった。 「さ、いくわよ、マンゴ」 ――――……いきたくねぇ……。 切実にマンゴジェリーは思ったが、世の中やはりそううまくは出来ていないようだった。 |
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