「いるんでしょう、出てきたら?」
 ジェリーロラムは立ち止まると、口を開いた。
 だが、彼女の声に応えるものはなく、茂み一つ揺らがない。
 けれど、ジェリーロラムはもう一度言った。
 「5数える間に出てこないと怒るわよ、私」
 声音は先程とまったく変わっていない。流石は女優といったところだろうか。
 観念したのか、彼女の真上の木から声が降ってくる。
 「怒るのは止めた方がいいぜ、ジェリー。可愛い顔が台無しだ」
 「だから、ジェリーには止めておこうといったんだ、俺は」
 見上げると、大きな影が二つ。
 「タガー、ランパス……」
 言わずと知れた、ラム・タム・タガーとランパスキャットだ。
 「あなた達が二人でいるなんて珍しいわね」
 「そうか?」
 「えぇ、珍しいわ」
 最近はね。とジェリーロラムは言う。
 タガーはこの頃子猫たちの遊び相手をしていることが多い。いや、厳密には子猫たちに遊ばれていることの方が多い。
 口も態度も素行も悪いタガーだったが、意外なことに子猫たちからの人気は高かった。それに彼自身、満更でもないようだ。
 少し前まではランパスキャットと自分がしていた役目を、今はタガーとマンカストラップがしてくれている。
 自分のいた大切な場所を自分の大切な人たちが守ってくれるということはなんて嬉しいことなんだろう。
 「やっと笑ったな」
 「は?」
 ジェリーロラムは思わず聞き返す。
 「ランパス……あなたもそこの万年発情期猫みたいな台詞が言えるようになったのね……」
 「おい、何だ、その万年発情期猫って」
 タガーの抗議を無視し、ジェリーロラムは先を続ける。
 「進歩したと取ればいいのか、それとも嘆かわしいと取るべきなのか……」
 「言っておくが、先に言ったのは俺じゃなくてそこの万年発情期猫だぞ」
 「おい!」
 「そう……タガーにもそんな女性を気遣うような事ができるようになったのね……ただの万年発情期猫から格上げしてあげないと」
 「そうだな、いい加減に昇進させてやらないと」
 はぅ。とタガーを完全に無視し、お互いに会話を進め溜息をつく。
 「おい……その『万年発情期猫』って誰が言ったんだ?」
 恨めしそうにタガーは訊く。
 「「マンカス」」
 二人の声が見事に重なった。
 最早怒る気力も失せたのか、タガーは「んなこったろうと思ったよ」とだけ力なく呟く。
 「俺はちゃんと相手選んでるんだぞ」
 「それ、威張ることじゃないわ」
 ジェリーロラムは思わず突っ込む。
 「まぁ、ランパスみたいに堅すぎるのもどうかとは思うけどね」
 ちらりとランパスキャットを見やるが、彼は知らんふりを決め込んでいるのか、まったく反応しない。
 「それはともかく、私が笑っちゃいけなかった?」
 いいや。とタガーは首を横に振る。
 「じゃぁ、どうして?」
 ジェリーロラムは首を傾げる。タガーは何事かを口ごもるが、はっきりとは答えない。
 代わりに答えたのはランパスキャットだ。
 「ジェニーのところから出てくるお前を見つけて、俺たちはここまで尾けてきた。理由は簡単。俺は心配だったから、タガーは“面白そうだから”」
 「……」
 「つまりは、この脳足りんも一人前に他人の心配をできるようになったってわけだ」
 あぁ、どうして……。
 「あなた達って…本当に――」
 マンカストラップ、タントミール、ジェミマ、ジェニエニドッツ、ランパスキャット、ラム・タム・タガー……。
 「大好きよ」


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何だかタガーが哀れになってきました。
どうでもいいんですが、ランパスって…猫のクセに名前に”キャット”って入ってるんですね。