平凡で退屈であること、

 例によって例のごとく。
 劇場が栄えて、町が潤って、仕事が増えても、本質だけは中々変えられないもので。
 一日の終わりが近づく夕方には、みんな結局大通りでたむろしている。

 「平和だよなー」
 「なんだかんだでね」
 「暇だよな」
 「ひまー」
 「だったら他所いけよ。営業妨害」

 店の中から聞こえてきた声にいっせいにブーイング。
 
 「ケチー」
 「カスタスのケチー」
 「ドけちー」
 「さびしんぼー」

 怒声とともに鍋が飛んできて。
 あぁ、やっぱり平和なんだなぁと、空気が和む。

 「こんばんは」

 ふいに響いたのは、場違いなくらいにおだやかな女性の声。
 こんばんは。と頭を下げると、「なんだかすごく楽しそうね」と笑顔で言われてしまった。
 嫌味なのか天然なのか。いや、悪気がこれっぽっちもないことだけはわかっている。
 彼女はスタスタと店の中へと入っていった。
 こちらのことなんかお構いナシだ。

 「こんばんは」

 彼女がカウンターで挨拶をすると、カスタスも挨拶を返した。珍しい。

 「お願いしてたもの、届いているかしら?」
 「えぇ、ありますよ」

 カスタスは応えて、棚から何かを取り出して袋に詰めなおす。
 その間も、良くは聞こえなかったけれど、何かの話をしていたようで。

 「ありがとう」

 受け取り、その後も二、三言、言葉を交わすと彼女は店から出てきた。
 こちらに視線をむけてやわらかく微笑む。

 「ごきげんよう」
 『ごきげんようー』

 うっかり流されて、そう返してしまった。
 手を振って見送って、視界から後姿が消えると、誰からともなく我に返った。

 「――――やべぇ」
 「完全に毒されてるよ、俺達」
 「ってゆーか、流されてる」
 「なんか、あの顔みるとつい……」

 結局、生き残るのは天然マイペース人間なのかもしれない。
 だって、あのボケボケオーラと、にっこり無敵スマイルにはかなわない。
 はぁ。と、誰かがついた溜息一つで話題が変わった。

 「腹減ったな」
 「ごはんー」
 「メシー」
 「おなかすいたー」
 「カスタス、ごはんー」
 「俺はお前らのおさんどんじゃねぇ!」

 今度はまな板が飛んでくる。
 えー。とさらにごねること数分。
 このパターンに持ち込めば、折れるのはいつもカスタスだ。
 案の定、悔しそうに舌打ちすると、「仕方ねぇな……!」といって、中へと引っ込んだ。

 「文句言ったら食わせねーからな」
 「いわない、いわない」
 「ハリーのメシより断然うまいもん」

 自分が作らないご飯はなんでもうまいんだよ。と本音はひっそり心に隠して。
 みんなそろって、ぞろぞろと中へと入る。
 最後に振り返ると、扉にはいつものように<CLOSED>の札をかけた。





















*補足。
デッドロックその後というか、何というか。
デッドロックの野郎達はなんとなくパンフみて見分けがつくようになりました。執念(笑)。
カスタスはポリーがNYに行くと言い出したときにすごく情けなそうかつ心配そうだったのでそのイメージが強いです。
カスタス以外は特に名前は出していません。誰がいるかは任意で。
フォーダー夫妻は結局そのままデッドロックに住み着いてればいいと思う。