麻衣達に昼食を取り次第霊視に行くよう告げると、ナルは女子生徒たちの方に改めて向き直った。
 PCの周辺にはリンとジョンがいる(パントリーが狭かったため、ジョンが遠慮したのだ)。
 「では、早速ですが、質問させていただきます。まず、お名前とクラスを確認させて下さい」
 と、向かって右端の生徒(これが先程から皆を代表していた少女だ)から一人一人の名前とクラスを確認していく。右端から、
 田中 理恵   3年B組
 荒木 美保   3年D組
 高井 由佳   2年A組
 藤田 友子   2年B組
 木村 香絵   1年C組
 である。
 やってきた生徒は事前に鈴木から知らされていた通りの者たちである。しかし予定よりも一人少ない。
 「小林さん……3年C組の小林 聡子さんはいらっしゃいませんか?」
 「サトコ……あ、小林さんは今日は来てません」
 「来ていない?
 「さっき連絡した、午前中に用事があるか、終わったら学校に来るっていってました」
 「そうですか」
 基本的に3年生は自宅待機のはずだが。まぁ、今時分の高校生が大人しく自宅にいるはずがない。遊びに出かけてうまく連絡のやり取りができないのか、他にも家庭の都合やアルバイトでもあったのか。何にしろ、急な呼び出しだ。応じられないこともあるだろう。
 「では、一番最初の事件のことからお聞きします。これは3年生の吉井さんが3号館3階廊下の鏡の前で倒れたということですが……田中さんと荒木さんは吉井さんと仲が良いそうですね?」
 「はい。あたし達……後、小林さんも部活が一緒で」
 「テニス部?」
 「そうです」
 応えたのは田中のほうだ。会議室に入ってきたときも先頭であったし、割とはっきりとした物怖じしない性格なのだろう。
 「この日、事件があったときはその場にいなかったのかな?」
 「いませんでした。あの日は忘れ物したって、ヨシイが教室に盗りに戻って……」
 部活帰りの下校はいつも一緒だったと田中はいった。あの日もそれは同様で、ただ、下駄箱のところで急に吉井が「忘れ物をしたからとってくる」と言い出したそうだ。もう一度、教室まで戻るのは田中達にとっては億劫だ。吉井もそれは承知で、「すぐに戻ってくるから、待ってて」とだけ告げて引き返していった。
 ――そして、吉井はそのまま戻ってこなかった。
 「しばらくしたら、先生達や警備員さんが騒ぎ始めて……それから救急車が来ました」
 「君達はそのまま下駄箱に?」
 「いえ。騒がしくなってきたのが3号館の方だったし、ヨシイが全然戻ってこないんで、途中であたしたちも3―C――ヨシイの教室まで行きました」
 3―Cはあの廊下の並びにある。
 「吉井さんの姿は見たのかな?」
 「一瞬、ちらっとだけ」
 「どんな様子だった?」
 「寝てる――っていうのとは違いますけど。目を閉じてぐったりしているみたいでした」
 「意識は?」
 「なかったと思います。警備員さんが読んでも反応しなかったみたいだから」
 一人で行かせなきゃよかった。
 田中は呟いた。
 「――吉井さんには何か持病はありましたか?例えば、喘息とかもしくはパニック症候群のようなものとか、他にも何か」
 「そういう話はきいたことはないです。ウチの部でも一番元気で健康で通ってましたから」
 「そうですか」
 ナルはそう呟くと、トントンと、ペンの先でファイルを叩いた。
 「――では、何か、変わったことは?事件の前に吉井さんに普段と変わったところはありませんでしたか?」
 「特には――私は、特になかったと思います。ね?」
 と、田中は同意を求めるように荒木を見る。荒木は不安げに視線を宙にさ迷わせると、「……うん」と、躊躇いがちに頷いた。
 「荒木さんは何かご存知ですか?」
 「あ、いえ……」
 「何かご存知でしたら教えてください。どんな些細な事でも結構です」
 「でも、多分全然関係ないことだと思うんで……」
 「関係ないことかどうかは伺ってみないと判断できません。僕対は少しでも情報が欲しいんです」
 ナルがそういうと、荒木は――それでも少し迷っていたようだが、おずおずと口を開いた。
 「――ケンカ、したんです。聡ちゃんと」
 聡ちゃん、というのは小林 聡子だろう。
 「詳しくはわからないんですけど、事件の2、3日前に」
 「理由は?」
 「わかりません」
 「吉井さんはそれを気にしていた?」
 「多分。あまり表に出さないタイプだから、よくわからないですけど」
 「君は何故それを?」
 「ケンカしてたところにたまたま居合わせて――」
 事件の2、3日前の放課後、教室に入ったら、二人が何かを言い争っていた、と荒木はいった。
 「私が教室のドアを開けたら、聡ちゃんは出て行っちゃったんで……詳しくは何も」
 残された吉井は苦笑し、「ケンカしちゃった」とだけ言ったそうだ。
 「その二人はよくケンカを?」
 「いいえ。いつもすごく仲良くて……多分、初めてだと思います」
 「そう」
 初めての仲違い。キーワードとしては薄い気がする。そも、時間が経過しすぎている。
 否、2、3日前ならそれも一端として考えるべきだろうか。
 「あの」
 ナルの思考を破るように荒木が言った。
 「すみません。関係ないこといって」
 「いいえ。関係ないかどうかはまだ一概にはいえませんので」
ふと違和感を覚えてナルは口を噤んだ。
 初めての仲違い。
 いつも一緒。
 事件の時には既に吉井と小林はケンカをしていたのだ。
 「田中さん、荒木さん。吉井さんが倒れた日は、小林さんも一緒に下校したんですか?」
 同じ部活仲間4人。下校はいつも一緒。
 ――ケンカをしている相手とも一緒に下校するだろうか。わざわざ。
 田中と荒木は確認しあうように顔を見合わせる。そして、田中が口を開いた。
 「サトコは……その日は先に帰りました」







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