日めくりの残りもあと少し。 今年ももう終わり。 「ねぇ、ミスト」 シラバブは廊下の壁にぶら下がったカレンダーを見上げながらきいた。 「どうして、明日からはカレンダーにないの?」 「カレンダーだからね」 廊下は寒いよ。とミストフェリーズはシラバブを抱えて室内へと向かう。 「だって、明日は明日だよ?」 「1年経ったら、カレンダーは変えなきゃ」 「日付が変わるとどうして年が変わるの?」 「1年は365日だからね」 「…………どうして?」 子供は無邪気だ。 ミストフェリーズは苦笑し、シラバブの頭をくしゃくしゃと撫でる。 「1年が過ぎないと、バブは年を取れないよ?」 「?」 「クリスマスもお正月も、バレンタインデーもこどもの日も、七夕もハロウィンも、誕生日もこなくてもバブはいいの?」 意地悪くそう訊くと、シラバブは難しい顔をして考え込む。 「バブは早く大きくなりたいんでしょ?」 「うん。大きくなって、お兄ちゃんをおいこすの」 「それはやめてね」 えー。と残念そうにいうシラバブのほっぺをきゅっと摘まむと、シラバブは「へへ」と微笑む。 「じゃぁ、今年を返してあげなきゃね。時間も疲れちゃうよ」 「時間がつかれるの?」 「そうだよ。時間だって年を取るよ。時間は常に流れてる。生物と同じでね」 「よくわかんない」 「ようわ、今年一年お疲れさまでしたってこと」 「『ことし一年、ありがとう』なの」 「僕に言ってもねぇ……まぁ、いいけど」 さぁ、中に入ろうか。 暖かい部屋と、あたたかいみんながまっている。 「一年間、お疲れさま、ねぇ……」 来年もよろしく。とミストフェリーズは誰にも聞こえないように呟いた。 * * * 炬燵の中に半身を突っ込んでラム・タム・タガーは天井を見上げた。 「今年も終わるなー」 「寒いからごそごそ動くな」 「いいじゃん、別に」 睨みつけてくるマンカストラップを適当にあしらい、炬燵の上にあるみかんに手を伸ばす。 文句を言う気も失せたのか、マンカストラップは、ラム・タム・タガーを一瞥すると、自分もごろんと横になり、天井を仰いだ。 「確かに、今年ももう終わるな」 「ていうか、ぶっちゃけ後数時間?」 「いうな」 今年一年を振り返っても、何だかバタバタしていた記憶しかない。いつの間にか、一年が過ぎようとしている。 「……何だか惰性でそのまま一年を終えてしまったような気がする」 「枯れてるなー」 呆れたように、ラム・タム・タガーは言い、今年の一番の思い出は?と訊くと、答えが暫く返ってこない。 「お前は考え込まないと今年一番の出来事も出てこないのかよ!?」 「出てこないというか、出てきすぎて何が凄かったのかももう分からない……」 「――情けねぇ」 「色々なことを遣り残した気がする」 「お前、毎年そんなこといってないか?」 「うるさいな」 やりたいことは、やらなければならないことは多すぎて、でも時間は刻々と過ぎていく。 「来年もこんな感じなんだろうな」 「そりゃな」 後、どれだけのことができるだろう。 「来年の今頃もお前は同じこと言ってるだろうよ」 「だろうな」 そろそろ教会の人間たちがバタバタとまた動き始める。新年のミサの準備のためだ。 「来年も……マンゴとランプに振り回されて、コリコとバブに遊ばれて、お前を怒鳴って過ごすのか……ぞっとしないな」 「あら、人聞きの悪い」 ラム・タム・タガーはわざと、炬燵の中にあるマンカストラップの足を蹴りつけた。 「おにいちゃん」 マンカストラップが蹴り返そうとした瞬間、扉からミストフェリーズに連れられてシラバブが入ってきた。 とてとてとてと、シラバブはマンカストラップの横にすっと入り込む。 「あったかーい」 マンカストラップは何も言わずにシラバブの頭を撫でてやる。 変わらぬ日々を過ごせること。 来年の今頃も、今日のようであることは、とても幸せなことかもしれない。 明日になっても何も変わらない。それはきっと大切なこと。 「あ、鐘鳴ってる!」 ぱたぱたと、シラバブは慌しく窓辺に駆け寄る。 ラム・タム・タガーはマンカストラップに訊いてみた。 「で、来年も何でしたっけ?」 「来年も『良い年でありますように』だ」 今日のしあわせが明日にも続いていきますよう。 明日も明後日も、その先も、ずっと。 来年も、再来年も、良い年でありますよう。 |
珍しく季節ネタ。 |