「いや、いいんだ。いつかはこんな日が来るとはわかっていたさ」
 「その割には滅茶苦茶ショックそうだけど」
 「わかっていたが、まさか今日いきなりそうくるとは思っていなかった」
 「あ、そう」
 ミストフェリーズは勝手にしてくれとでもいわんばかりだ。
 まぁ、いきなりっていえばいきなりだけどさー。とミストフェリーズはいう。
 「バブの年考えてみなよ。そろそろ親離れが始まってもいい頃じゃない?」
 「それはそうだが……」
 いまいち釈然としないというか何というか……。
 当のシラバブはというと、少し離れたところでお気に入りのパンダのぬいぐるみと遊んでいる。
 「――大体、ジェミマもジェミマだ。バブに妙なこと吹き込んで」
 「君、それ責任転嫁」
 「ジェミマはもう少し大きくなってもひとりで寝付けなかったんだ」
 「…………ごめん、訂正。君はただの親馬鹿だ」
 はぁ、とミストフェリーズはこれ以上ないというほど大きな溜息をつく。
 「バブ、最近微妙に反抗期だしさー……その所為もあるんじゃないの?」
 もう、どうにでもなれ。これ以上コチラが後手に回るような事態になると、マンカストラップはきっといつまでも今回のシラバブの「ひとり立ち(誤)」宣言についての文句をこぼし続けるだろう。
 ――それだけならいいけどね……。
 下手をしたら、それだけでなく、シラバブがいかに可愛いかというわけのわからないことに発展していくに違いない。
ジェミマがタガーが絡むと見境がなくなるのら、マンカストラップはシラバブが絡むと理性がなくなる。
 「……そう、なのか」
 「そういうことにしておけば」
 ミストフェリーズがそういい終えると、シラバブがふと何かを思いついたかのように此方へとやってくる。
 「ねぇ、お兄ちゃん」
 「ん?」
 「“せっくす”ってなに?」

 *   *   *

 きがつけば、いつも傍にはだれかがいた。
 ほんのたまに、ひとりになることはあったけど、
 そのときも、すぐにだれかがきてくれた。
 それがいつのまにかあたりまえになっていて、
 だから……
 “傍にいてくれる”んだと、きがつかなかった。

 「……」
 だいじょうぶ、こわくない。
 星の綺麗な夜だった。
 シラバブは新しく与えられた部屋――というよりも、空いていた客間をマンカストラップが用意してくれた――でシーツに包まり、丸くなっていた。
 もちろん、パンダさんも一緒だ。
 一人で寝ると言い張っても、パンダさんは勘定に入ってないらしい。
 ぎゅっと、パンダを抱き締める。
 だいじょうぶ、こわくない。
 少し、寂しいけれど、大丈夫。
 シラバブは自分に言い聞かせる。
 時計を見上げると、そろそろ日付が変わる時間だった。
 こんなにおそくまで起きてたのはじめて……。
 いつもは「子供は早く寝なさい」とかなり早い時間に寝かしつけられてしまう。今日も、それは例外ではなかったが、寝床に入り、シーツに包まっても、いつものような眠気は襲ってこなかった。だから、まだ起きていられる。
 なんか、トクベツだ……。
 そう思うと少しだけ嬉しかった。
 もう一度、パンダを抱きなおすと、シラバブは瞳を閉じた。早く、眠ってしまわないと。明日の朝、起きることが出来ない。一人でも大丈夫だということを示す為にも、今日はきちんと寝て、明日の朝、元気に起きなければ……。

 だが、現実はそんなに甘いものではなかった。
 「――」
 あれから二時間、まったく眠れないということはなかったが、うつらうつらを繰り返しているだけで、きちんと眠れてはいない。
 基本的にシラバブの眠りは深い。一度寝たら滅多なことでは目を覚まさない。
 それなのに、だ。
 「――――ねむれない」
 声に出して呟く。
 「ねむれない、ねむれない、ねむれない……っ」
 さみしい、さみしい、さみしい
 段々と、言葉に嗚咽がまじり、声にならなくなっていく。
 ひとり、とはこんなにも寂しいものだったんだろうか。
 何をいっても、誰も返してくれない。
 誰も、きてくれない。
 誰も、いない。
 『いいなぁ、起きた時に誰かがいてくれるって』
 今ならこの言葉の意味がわかる。
 彼女も、そう、なのだ。
 「――……もう、ヤダぁ……っ」
 涙こそ流さなかったが、確実にシラバブはないていた。

 *   *   *

 ふと、マンカストラップの左耳がぴくりと動いた。
 読んでいた本から顔を上げ、扉の方を振り向く。
 さて、どうしたものか。
 今教会内にいるのはデュトロノミーにミストフェリーズ、そしてシラバブ。
 タガーはどうせどこかの雌猫の寝床にいるだろうし、スキンブルは仕事中。
 デュトロノミーは此処が寝床ではあるが、厳密には教会といっても、礼拝堂だから、此処ではあるが、此処ではない。
 なので、消去法でミストフェリーズかシラバブになる。
 気配は扉の前から動かない。
 ミストフェリーズなら、気配を彼に悟られるというようなことはないだろう。言いたいことがあるならさっさと入ってくるし、外へと抜け出したいなら、もっとうまくやる。
 ということは――シラバブ。
 “第三者”という選択肢が浮かばないのは彼の性格らしい。
 静かに本を閉じると、マンカストラップは立ち上がり、扉へと向かった。

 *   *   *

 扉を目の前にしたまま、シラバブは動けずにいた。
 今更恥ずかしいとか、そういう気持ちも勿論あるにはあったが、それ以上に扉の向こうの人物が“怒って”いたらどうしよう、という気持ちの方が大きかった。
 「……」
 手を伸ばしかけては引く。その繰り返しを何度繰り返しただろう。
 泣いて喚いて、それで終わるのならば終わりにしたかったが、それができるほど、シラバブは子供ではなくなっていた。
 ふと、もう一度手を伸ばしかけた瞬間、扉は向こうから開いた。
 「――!?」
 シラバブは慌てて手を引っ込める。
 「バブ?」
 シラバブは俯いたまま、無言で抱きついた。
 「       」
 「え?」
 「――……やっぱりやめる」
 「バブ?」
 「やっぱり、こっちのほうがいい」
 「……」
 「さみしいの、やだ」
 何も言わずに、優しく、シラバブに頭を撫でると、そのままシラバブの手を引いて、マンカストラップは部屋へと入っていった。











書き上げ自体は一気にいったんで、今までと然程かわらない……というか、今迄で一番楽だったんですが。
私はワード(B5換算)で10枚以上もつかって何馬鹿なことをしていたんでしょう。
削るところはあるし、どこを削るかも決まってたんですが、そこを削ると(私が)楽しくないんでそのままいきました。

バブとマンカスがひたすらにベタベタしてるのが書きたかったんだと思います、多分。後、お下品会話。
同志募集〜(オイ)