01:踏み切りの前で

 くあぁ、と、ピコは大きな欠伸をした。
 自転車を支えているので両手で口をふさぐこともせずに、おもいっきり。
 大きく口を開けてした欠伸はかなり恥ずかしかったが、誰も見ていないのでよしとしよう。
 早朝の街はひっそりと静まり返っていた。
 道を行くひとはほとんどなく、ようやく、朝日の中を小鳥がチュンチュンとさえずり始めだしたころだ。
 ピコはちらりと腕時計をみる。
 補講があるからと早起きせざるを得なかったが、いつもならば、まだ後30分は寝ている時間だ。
 街はまだ眠りの中で、しあわせな夢をみていて、いつもの日常の光景からは想像できない姿を映し出している。
 もうしばらくして、人々が起き出し、活動を開始すれば、街はたちまち普段通りの姿を取り戻すだろう。
 ひんやりとした風が頬を撫でていく。
 連日、慢性的に暑い空気が街を包み込んでいるせいか、近頃は朝の気温もさほど低くはない。風は冷たく心地よいけれど、今日も暑くなりそうだった。
 始発から何本目という電車が目の前を通り過ぎていく。
けたたましく響く警報音とレールを擦る車輪の音を聞きながら、ボンヤリとした頭で、ピコは電車を見送った。
 昨夜はあまり眠れなかった――というのは少し違う。何故なら、眠りについたのは明らかに昨夜ではなく今日で、しかも、夜というよりは最早朝といったほうがいいような時間だからだ。ひらたくいえば、ほとんど寝られていない。
 これもそれも全部彼のせいだ。
 と、ピコは内心で悪態をつく。
 そう考えるのは筋違いで、完全な責任転嫁だというのはわかっていた。彼はただきっかけを与えてくれただけで、彼の手をとるも、とらないもピコ次第なのだから。
 それでも、先程から何度となく欠伸を繰り返していると、ついつい愚痴の一つも言いたくなってくるというものだ。
 いつもそうだ。
 彼は必ず、『続きはまた』と言って半ば強制的にピコを帰してしまう。
 そうすると、ピコとしてはその続きが気になって眠れないという次第だ。下手をすれば、翌日(というか当日というか)丸々一日中、気になって、何をしても上の空ということも珍しくない。
 これでは愚痴のでない方が不思議だろう。
 ふいに、踏切の警報音が止む。
 それと同時に遮断機がするすると上がりはじめた。
 ピコは自転車を支える手に力を込める。
 遮断機が完全に上がりきるのを見届けると、ピコは欠伸まじりに歩き始めた。















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